Pop Smoke / Shoot for the Stars, Aim for the Moon

Release Date / 3rd July 2020
あの凄惨な銃撃事件により命を落としてから早5ヶ月が経とうとしている。そう、僅か20歳という若さでこの世を去ってしまったラッパーのPop Smokeが自身の遺作となる『Shoot for the Stars, Aim for the Moon』をリリースした。今作はまだ2020年7月に入ってから発表されたばかりの新譜なのだが、これからの将来が楽しみだった有望株のラッパーの死後なだけに未だに”遺作”という現実を受け止めきれないヘッズも多い事だろう。かくいう筆者もその一人で、昨年2019年にPop Smokeがヒットさせたシングル”Welcome to the Party”の頃から非常に注目していたラッパーの一人だった。その独特の声質やフロウ、またリリックのデリバリーのスタイルから50セントの再来と評されたPop Smokeだったが、それは決して過大評価などで無い事は彼のラップを聴けば一目瞭然。また比較対象である50セント自身もPop Smokeを高く評価しており、その証拠に50セントは彼の死の直後に素早いアクションを起こす事となる。そのアクションとは、儚くも遺作となってしまった『Shoot for the Stars, Aim for the Moon』にエグゼクティブ・プロデューサーとして参加することだった。これは生前から50セントをリスペクトしていたPop Smokeにとっても吉報に違いないだろう。無論、まだ彼が生存していたら更に素晴らしいコラボレーションになっていた筈だが・・・。そんな50セント自身も”The Woo”で1曲客演している今作だが、発表前の下馬評の通り素晴らしいアルバムとなっていると断言する。その中でも彼のラップのスキルに言及するならば、刹那的なトラックが耳に刺さる”Gangstas”やTygaにQuavoをゲストに迎えた”West Coast Shit”の様なネタ感の強めの曲だったり、またLil BabyにDaBabyとの”For the Night”で聴かせるトラップ感だとか、”Something Special”みたいなメロディアスな曲調でも自在にビートに乗るフロウが最大の武器なのではと感じた。この変幻自在のフロウは何曲でも飽きずに聴けると感じたし、これから何曲でも新曲として聴けると信じていただけにPop Smokeの訃報はシーンにとっても大きな損失だと言わざるを得ない。ただ今作『Shoot for the Stars, Aim for the Moon』にまつわるトピックは何も暗いニュースばかりでは無い。まず先述の通り作品自体のクオリティが非常に高い事に加えて、ビルボード200の最新チャートでもブッチ切りの数字(なんと初週で24万枚超え)で初登場1位を獲得した事。そして、Pop Smokeを襲った襲撃犯の逮捕のニュースにも少しばかり溜飲が下がる思いがした。だが、2パックとビギーの死から二十数年もの月日が経過したヒップホップ・シーンでも相変わらずラッパー達が狙撃されている事態に強い危機感も持った事も事実である。だからこそ、この『Shoot for the Stars, Aim for the Moon』という素晴らしいアルバムが、少しでもシーンがポジティブな方向へ進むきっかけになればと思う次第だ。
DJ YU-1

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