Release Date / 18 Aug. 2023
サウス・ヒップホップのファンならずとも今作を待ち望んでいたヘッズは多かったのでは無いだろか?? 最早「あのトラップ・シーンを代表する MCトリオ = Migos のメンバー」なんて枕詞は必要あるまい。既にマイクを握るスーパースターの1人と評して良いくらいの存在感を放つラッパー Quavo のソロ作品としては2枚目となるアルバム『Rocket Power』が発表された訳だが、まずは今作が無事にドロップされた事を祝福したい。そう、Quavo と言えば昨年の Takeoff 銃撃事件の現場に居合わせていた事もあり、再びマイクを握る精神状態に戻せるのか危惧する声も少なくなかった。それもその筈、昨年のヒューストンにて銃撃を受けた Takeoff も Migos のメンバーであり、更には Quavo からすれば血縁の甥っ子にもあたるラッパーだ。そんな大切な仲間が自身の目の前で撃ち殺された挙句、下手をすればQuavo だって命を落としていたかも知れなかったのだ。この凄惨な事件を経験しても尚、表舞台に立つ彼のメンタルの強さは想像を絶するものがあるだろう。だからこそと言っては何だが、今作『Rocket Power』でも Migos の代名詞である(*) “三連符フロウ” は健在。いや、今は亡き Takeoff の穴を埋めるくらいに詰め込まれた言葉の数々は、更に研ぎ澄まされたかの様に感じた。
(*)
〈 “三連符フロウ” とは1拍のなかに3つの言葉を乗せるラップの手法。トラップ系のビートとの相性の良さは絶大なものがある〉
まず今作を聴いてみて印象的だったのは、やはり従来のトラップビートの鳴りの良さを維持しつつも、そのビートの上に被せる三連符フロウの完成度の高さだ。このラップのスキルはアメリカで市民権どころか、日清カップヌードルのCMでも引用されているくらいだ。(ピンと来ない人は “カップヌードル辛麺CM” で検索してみよう) デビュー当初はベテランのMC達から “下手クソなマンブルラッパー” なんて揶揄をされることも多かった Quavo だが、彼らのスタイルがこれだけ世の中に浸透してしまえば聴いていて安心するのも無理は無い。そのフロウに呼応するかの様にゲストで参加した Future や Young Thug のラップも相変わらずの安定感を魅せてくれた。また今作では複数のビートを提供した BNYX®️と Murda Beatz のタイトな仕事も見逃せない。そして何と言っても今作のハイライトは、アルバムのタイトル曲でもある “Rocket Power” で間違いないだろう。故・Takeoff のニックネームでもある〈Rocket 〉を冠した同曲は明らかに Takeoffに向けて書いたもの。その中でも特筆すべきは2ヴァース目のリリックで、その内容も仲間を失う悲しみを切実に綴っている。未聴のヘッズは和訳サイトなどでリリックも是非チェックしてみて欲しい。そうした動きの中で NIKE社のジョーダンブランドと Quavo が、Takeoff の死を追悼して エア・ジョーダン1の Rocket Power モデルの発表をアナウンスしたばかりだ。勿論これは彼の死を悔む意味での記念モデルとなる1足なのだが、これが単なるビジネスでは無くてヒップホップのネガティブな一面を払拭するムーブメントにもなる事を切に願う。
ともかく今は非業の死を遂げた Takeoff に哀悼の意を。R.I.P。
DJ YU-1