Release Date / 3 June 2022
前作『Hollywood’s Bleeding』は世界的なヒットを記録し、昨年2021年にはRIAA(アメリカレコード協会) から史上最年少でダイアモンド認定を受けたアーティストとなった Post Malone 。そこだけ切り取ってみると彼の事が地位も名誉も欲しい物を全て手に入れたスーパースターの様に見えるのだが、どんなにリッチなセレブでも人生の悩みは付きものだ。そう、コロナ禍におけるパンデミックが世界中を呑み込んだ頃、不幸にも彼は極度の閉所恐怖症を発症してしまう。それは一体何を意味するのかと言えば、Post Malne と言う1人のアーティストが数多くの機材に囲まれたスタジオに篭ってレコーディングする事が困難になってしまったと言う事だ。この悲劇は音楽シーンそのものに大きな損失となり得る可能性すらあったのだが、彼が発症した閉所恐怖症はコロナ禍によるストレスだけが原因では無い事は今作『Twelve Carat Tootheche』を聴けば良く分かる。
例えば今作に収録された “Wasting Angel” のリリックではドラッグについて、また “Love/Hate Letter To Alcohol” では酒に溺れた日々を赤裸々に綴った Post Malone。まだ若いとは言え、彼の曲を聴くと困難な局面を幾度も乗り越えてきたアーティストである事が伺えるだろう。そして今作『Twelve Carat Tootheche』は決してネガティブな曲ばかりのアルバムと言う訳ではない。彼曰く、マリブの海辺の”解放感” のある家に引っ越してからは狭いスタジオでは無く、自由な空間でのセッションが可能になったのだと言う。恐らく Doja Cat をゲストに迎えた “I Like You(A Happier Song)” , The Weeknd とのコンビネーションが冴え渡る “One Riht Now” あたりの曲は閉所恐怖症を乗り換えた後のポジティブなターンがもたらしたアッパーチューンなのではないか?(余談だが、筆者としてはポジティブなターンのPost Malone の方が大好きだ)
結果的には、この彼の中の紆余曲折が人生の喜怒哀楽の要素を全て詰めこませたアルバムに昇華させるきっかけになったと考えると何とも因果なものだ。だが、Post Malone のアーティストとしてのジャンルレスなスタイルには非常にハマっていて聴き応えのある作品になったとも言える。また、コロナ禍の長いトンネルを抜けようとする世相にもマッチしていて、今作『Twelve Carat Tootheche』は多くのリスナーの心に刺さるアルバムとして眩い輝きを放つだろう。傑作だ。
DJ YU-1