Vybz Kartel / To Tanesha

Release Date / 10 Jan. 2020

ジャマイカの・・・いやジャマイカのみならずダンスホール・シーンきってのスーパースターでありながら2011年に殺人の罪を犯すと、2014年には終身刑を言い渡されてしまったヴァイブス・カーテル。だが、彼の生活ぶりは、日本人がイメージを抱く無期懲役を言い渡された受刑者の生活ぶりとは大きく異なる。それは収監された2014年以降でも、2015年には「Viking(Vibs is King)」、2016年に「King of The Dancehall」といったフルアルバム達をリリースしている事からも良く分かる。いや、受刑者がレコーディングしているという刑務所の環境にも驚くのだが、更に驚くべきはサッカー観戦までをも楽しみ、その心境を自身のインスタグラムで吐露するほど普通に暮らしているところが驚愕の事実ではないか?(しかも彼のインスタのフォロワーは95万人超え!)うん。中南米の自由な刑務所と言えばコロンビアの麻薬王 = 故パブロ・エスコバルが有名だが、もはや彼らが体験してきた生い立ちや感性を日本人の感覚で推し量ることは不可能であろう。そんなパブロ・エスコバルにも強烈なリスペクトの念を抱いているヴァイブス・カーテルだが、この度は2020年に入っても無事に?新アルバムとなる「To Tanesha」をドロップした。それはもうね・・・完全に受刑者の感性で作り上げたものではなく、自由に外の空気を吸っている者が制作したとしか思えないシロモノとなっている。そう、アルバムの序盤は”Neva was Da One”、”Delusional”といったバラードが続くのだが、それらは所謂レゲエ的なラヴァーズというよりかはR&Bに近い感触であり、またアルバム中盤の”Neva Walk Alone”、”Rocket To Da Moon”はダンスホールというよりかはアトランタ直系のトラップのようなビートに仕上がっている抜群の完成度。さすがはヒップホップ / R&Bシーンのアーティストからも絶大な支持を誇るヴァイブス・カーテルらしい素晴らしいバランス感覚がもたらしたアルバムだと思わされるくらいだ。しかし、終身刑を喰らっておきながらも随分と流行のサウンドに敏感ですねぇ?この辺は本当に理解しかねるが、それも一つの世界なのだろう。ちなみに本稿ではヴァイブスが犯した罪や道徳的なことは一切考慮せずに、純粋に一枚のアルバムとして批評しているので悪しからず。それを踏まえた上で今作「To Tanesha」を聴くか聴かないかは、あなた次第。
(DJ YU-1)

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