Release Date / June 14th 2013
By Kana Muramatsu
2013年はデスティニーズ・チャイルドの年になるのは、彼女達のラヴ・ソング集の発売とスーパーボウルでのリユニオン・パフォーマンスからも明らかだった。2005年に解散後、ビヨンセがアルバムを出すのが見えてくると、必ずケリー・ローランドとミシェル・ウィリアムスがソロを次々と発表する。そして結局、ビヨンセの影に隠れて終わってしまうことが続いていた。その背景に何があるのか憶測を並べればキリがないが、普通に考えても、不公平なマーケティングだったように思う。ビヨンセの妹ソランジュは全く違う路線で活動し、自分の路を切り開いた根性のあるタイプだったが、特に、デビューからずっと一緒で、姉妹同然(ということにしておく)のケリーがよくここまで我慢したと同情してしまうほどだった。しかし、今回ばかりは何となく風向きが変わってきているようだ。2009年にフランスのデヴィット・ゲッタの”When Love Takes Over”に共演し大ヒットさせたことで、自らをヨーロッパから世界へ新ダンス・クイーンの地位へと押し上げ、デヴィットを世界的DJ/プロデューサーにした時から、彼女の存在感が少しずつ変わってきたが、まだ彼女自身も自分の居場所がわかっていなかったように、シーンから遠ざかっていた。そのケリーが満を持して新作『Talk A Good Game』を発表してきた。今度は、とてつもない自信をつけて。。。
いきなりジェイミー・フォックスの”Freak”(リコ・ラヴをフィーチャー。『Best Night Of My Life』-2010収録)のカヴァーで始まる本作。ジェイミーの時よりも、よりエロく、エレクトロ感が増したカヴァーに仕上がっている。どちらがいいかと比べられる対象というよりも、女の底力さえも感じ、どことなく80年代の空気が漂う、全く目線の違う曲だと思った方が楽しめるだろう。そして続くは、先行シングルであり、キュートなミュージック・ヴィデオにスッカリ騙されちゃいけないってくらい大胆な直球のエロ曲”Kisses Down Low”。これまでも彼女は”ICE”のように少しエロ路線を押し出してきたが、どうも彼女の声自体にエロさがあと一押し足りないのが残念なところ。ただ、これまでの作品ではまだまだ自分のスタイルから声までも模索していたようなところがあったケリーが、本作でやっと自分の居場所のようなものを確信した楽曲でもあるだろう。どの曲よりも自由に、楽に、楽しそうに歌っているのが印象的だ。相当エロい内容なのに(笑)。その対照的に最も辛そうに歌うは、彼女のDV体験とビヨンセとの関係を赤裸々に描写された”Dirty Laundry”だ。(余談だが、ザ・ドリームは裏方だと本当にイイ仕事をする)彼女にとってまさにデトックス的な楽曲。残念ながらアルバムには収録されていないが、あのR.ケリーも飛びつき即座にリミックスを発表。これもまた色んな意味で面白いコラボになっている。本作には他にもR&Bファンを喜ばす隠し味がある。ジャネット・ジャクソンの”Got Til It’s Gone”と同じジョニ・ミッチェルの”Big Yellow Cab”をサンプルした”Gone”。ジャネットはQティップをフィーチャーし、彼は「Joni Mitchell never lies」とラップしていたが、今曲にフィーチャーされているウィズ・カリファは「Kelly never lies」とラップする。そんなところからも、ケリーからジャネットへのオマージュ的作品と言って間違いないだろう。またもう1つ、デスチャ・ファンには今年3度目のプレゼントが届いた。彼女達の名曲の1つ”Girl”のパート2的な”You Changed”に、ビヨンセとミシェルをフィーチャー。ケリーの作品とはいえ、これはもうデスチャ。彼女達のハーモニーが堪能できる。
それぞれの曲ごとに話題性は大いにあるものの、これだ!という決定的なヒットシングル曲は残念ながらないかもしれない。しかし、アルバムとしてのまとまり感はハンパない。間違いなく、これまでの彼女の作品の中で彼女のシンガーとしての良さを前面に出した最高の1枚だと思う。完全に自分のブランドを作り上げたビヨンセも素晴らしいし好きではあるが、不器用でもちゃんと前を向いて自分らしく歌おうと自分模索中のケリーを、心から全力で応援したくなってしまうのは私だけではないはずだ。