Release Date / 11 Nov 2022
今作は2020年から始まった『King’s Disease』シリーズ3部作の集大成といったところだろうか?そう、HIP HOPシーンにおいてはリリシストの代名詞とも言えるレジェンドMC = Nas が アルバム1枚丸ごとのプロデュースを Hit-Boy に一任したのがおよそ3年前の事。この Nas の思い切った決断には驚いたものだが、Hit-Boy がプロデュースした『King’s Disease』で受賞したグラミー賞が 彼自身にとってキャリア初のタイトルだった事にも驚いてしまった。そうなのだ。Nas と言えば幾度もグラミー賞にノミネートされてきたのだが、肝心の受賞は逃してしまうといった不遇のキャリアを送ってきた。実は、シーン内外で金字塔と称される鬼クラシック『illmatic』でさえセールス面では50万枚ほどしか売れていないくらいで、世間からの評価とは裏腹にメインストリームでの Nas の立ち位置は非常にデリケートなものだったと推測する。(例えばセールス面では大成功を収めた2ndアルバム『It Was Written』の評価が低いあたりが何ともNasらしい)
まぁ、当の本人がグラミー賞の受賞に固執していたのかは定かでは無いのだが、この『King’s Disease』の出来栄えには余程の手ごたえがあったのだろう。このアルバム以降、Nas 名義の全ての作品のプロデュースを Hit-Boy が務める事になる。そして2021年の 1年間だけで『King’s Disease Ⅱ』,『Magic』と2枚の作品を発表し、名実ともに盟友となった2人が先日リリースした『King’s Disease Ⅲ』の完成度の高さといったら!
先述した通りだが、今作は正に2人の集大成と断言できるアルバムだ。余計なゲストは呼ばずに Hit-Boy が手掛ける極めてタイトなビートと Nas の叙情的なリリックが流れるだけのシンプルな作品は捨て曲ナシ。本当にこの3年間で2人の意思疎通が極限まで練り上げられている事が今作を聴けば良く分かる。最早どの曲がポイントだとかシングル候補だとかでは無く、アルバム 1枚で 1つの楽曲を聴くくらいの感覚で臨む事が今作の楽しみ方としては正解なのだろう。この感触は大袈裟でもなく『illmatic』に匹敵するクオリティなのだが、一つ贅沢を言えばそろそろ他のトラックメイカーのビートに乗る Nas も聴きたかった。例えばプリモとかプリモとかプリモとか?(笑)いずれにせよ90’s の東海岸のHIP HOP を敬愛するヘッズは今作を必聴する事。仮にコレがグラミー賞を逃したとしても、ストリートにいる連中からは5本マイク認定されるでしょ?だって傑作なんだから。
DJ YU-1