Release Date / 30 OCT. 2020
世間一般のリスナーが持つAriana Grande のイメージといえば一体なんだろうか。いや、そんな事は聞くまでもなかったか?確かに〈アリアナちゃん〉というシンガーの印象は、キャッチーなポップアイコンとしてのイメージが定着していると見て間違いないだろう。そりゃもうデビューから数々のヒットを飛ばしている訳だが、直近でいえば2019年に発表した前作『Thank U, Next』からのヒットシングル “7 Rings” のMVで魅せた親日家ぶりや、同曲のタイトルをなぞらえた “七輪” のタトゥーあたりは彼女のポップアイコンとして、またエンターテイナーとしての真骨頂とも言える仕事ぶりだった。また、ゴシップ誌を賑わせる私生活の華やかさもポップスターの個性としては申し分ない。
ところが2020年のAriana Grande は、これまでの彼女とは一味違う様子ではないか?もう簡潔に言わせてもらえば、今までのキャッチーなイメージから脱皮してパブリックな事も表現出来るアーティストに変貌を遂げたと断言する。もちろん、2020年という歴史的に見てもイレギュラーな年だからこそという一面もあるだろうが、5月に発表したJustin Bieber とのコラボ曲 “Stick With U” は新型コロナウィルスに立ち向かう医療従事者の家族に向けてのチャリティーソングだったし、今作『Positions』からのタイトル曲である “Positions” のMVは米・大統領選挙をフェミニストの視点から皮肉るという、極めてタイムリーな曲となっているではないか。もちろんアメリカのアーティストが政治的な表現をする事に珍しさは無いのだが、ことAriana Grande に関しては珍しい事だと思えたのだ。(誠に失礼な話ですが…)と、ここまでの活動で大幅なイメージチェンジと思わせたが、そこはあの〈アリアナちゃん〉だ。大統領選挙を揶揄したMVの中でも、架空の女性大統領のアフターでの日常を茶目っ気たっぷりに演じる様子が大いにバズり、“Positions” は米・シングルチャートで初登場1位をゲット。更にはシングルチャート初登場1位の最多記録(5曲)まで更新するというオマケつきだ。補足すると、この記録の次点に続いているのが Mariah Carey, Drake, Travis Scott である事を付け加えれば、彼女がどれだけの偉業を成し遂げたか分かりやすいだろう。
また、今作『Positions』からのキラーチューンは当然ながらアルバムタイトル曲だけではない。例えば“Shut Up” 、“Just Like Magic” といった Ariana Grande らしいポップスな曲は健在で、更にはThe Weeknd をゲストに迎えた “Of The Table” や Ty Dolla $ign との “Safety Net” では本格的なR&Bを聴かせ、また“34+35” のリリックでは夜の営みを赤裸々に綴る大胆さが各方面で話題になる等、収録された楽曲達の振れ幅も非常に豊かであり聴き手をどこまでも飽きさせない。これは、なかなかのアルバム・・・それどころか今作『Positions』は、彼女にとっての最高傑作になるのでは?と思っていたら、最新の米・アルバムチャートでも初登場1位を記録した。(ちなみにアリアナは自身の3rdアルバム以外の全てのアルバムで1位を獲得している)まぁこれだけのクオリティで作品を落としたら、そりゃ売れるよねぇ?流石です。
DJ YU-1