Release Date / June 11th 2013
By Kana Muramatsu
女性アーティストとして成功していくには一般的に<華>が必要だと言われている。究極のところ、顔の造りや体型よりも、へたをすれば、歌のうまさよりも、人はそこに魅力を感じ惹かれていくと言っても過言ではないかもしれない。クリセット・ミシェルは、なぜか<華>があまりない女性アーティストだった。デビュー当時から女として明らかにキレイになっているにも関わらず、なぜかアーティストとしての<華>がなかなか咲かなかった。Ne-Yoがエグゼクティヴ・プロデューサーとしても関わるようになった2作目『Epiphany』(2009)が大ヒットし、サウンドも洗練され、メインストリームでの活動が増えても、そこだけはあまり変わることがなかったように思う。遂には3作目では、自分のアーティストとしての立ち位置を模索するかのようにヴィジュアルやサウンド的にも少し冒険しすぎてあまり受け入れられなかった。彼女ほど歌が上手い人がどうしてだろう。彼女ほど声に独特の魅力のあるシンガーがどうしてだろう。サウンドだって申し分がない。そう考えた時、やはり辿り着くのが、<華>だったように思うのだ。
約2年半のブレイクを経て発表となった4作目『Better』。まさに、彼女の過去の作品と比べても格段にベターな作品であり、ベターなアーティストになったことを感じる作品だ。デビュー作『I Am』からの失恋した女性へのアンセム”Be OK”や2作目『Epiphany』からの”I’m Okay”がヒットしたのは皮肉としか言えない。彼女がずっと歌ってきた曲は、多くの女性が共感出来る内容や女性への応援歌であるのに、結局のところ、オッケー止まりだった。応援歌を歌っているにも関わらず、何かとても哀しそうだった。それが、本作では、何かから吹っ切れた、まるで脱皮したかのように<華>を咲かせてきた。恐らく、彼女自身も会心作だと思っているのではないかと思うが、本当に素晴らしいアルバムに仕上がってる。これまでもずっと一緒に作品を作ってきたチャック・ハーモニーと共作のタイトル・トラック”Better”という名曲が生まれただけでなく、あのカーヴィン&アイヴァンによる”Let Me In”や”Love Won’t Leave Me Out”、実は日本で大人気のシェネルのデビュー作でショーン・ギャレットと共に”Hurry Up”という名クラブ・ソングを生み、その後クリス・ブラウンやアリシア・キーズ、そして、ニッキ・ミナージュの大ヒット曲”Your Love”を手掛けたウォーレン・オーク・フェルダーとアンドリュー・ポップ・ワンセルによる珠玉のラヴ・ソング”A Couple Of Forevers”など、アルバムを通して次々と魅了される曲ばかり。これまであまりラッパーなどはフィーチャーしてこなかったクリセットが、Waleや2 Chainz、Dunsonや新人女性ラッパー、ネロ・ルチなど、ラッパーをフィーチャーしている点も注目すべきだし、ビラルとのライヴ感溢れるコラボも聴きどころではあるが、正直、本来は一層華を添えてくれるはずのそんなフィーチャリングの存在感さえもかすめてしまうほどの華を彼女は咲かせてくれた。2013年は次々とR&Bの良作が生まれてきているが、本作は間違いなく、多くの人達の今年のトップ10に入るだろう傑作だと思う。