大ヒットした前作『After Hours』の発表から約2年。突如としてサプライズリリースされた The Weeknd の5thアルバムとなる『Dawn FM』は、リリースされるや否やApple Music では何と111カ国で1位を獲得する等、お祭り騒ぎの様相を呈しているがこのリアクションが決して大袈裟なものでは無い事は、今作を聴けばすぐに分かる。アルバムタイトルよろしくJim Carrey がラジオのパーソナリティに扮したアルバムのイントロ部分の “Dawn FM” , またアウトロ “Phantom Regret by Jim” での仕掛けに思わずニヤリとさせられるのだが、今作の核心はラジオ番組に見せかけた仕掛けではなく、80年代のポップスにインスパイアを受けたエレクトロなサウンドにあるだろう。
そう、アルバム2曲目の “Gasoline” から本格的に幕を開ける今作は、何処か懐かしさすら覚えるノスタルジックなポップスで彩られているのだ。だが、この80年代をオマージュしたトラックリストが単なる懐古主義に終わらず、2022年仕様にアップデートされている事は今作のエグゼクティブ・プロデューサーである Oneohtrix Point Never の手腕と The Weeknd の表現力のスキルが高次元で融合した結果と見て間違いない。そして、この今作の独特なサウンドは近年の日本におけるシティポップの再ブームにも酷似している様に感じたのだが、今作収録の “Out of Time” で日本人アーティストの亜蘭知子が1983年に発表した “Midnight Pretenders” をサンプリングしている辺り、あながち的外れな見解でも無いのかも知れない。
と、ここまでツラツラと語ってしまったが今作『Dawn FM』は余計な事を考えずに無心でも楽しめるのでご安心を。先述の通り、Apple Music では111ヶ国で1位を獲得する程に娯楽作品として、大衆音楽としても傑作なのだから。
DJ YU-1