Release Date / 22 May 2022
今作は1990年代初頭のニューヨークで台頭していたHIP HOPのスタイル = ネイティブ・タン、または当時ニュースクールと呼ばれていたグループのファンならば必聴と言わざるを得ないアルバムだ。いや、その当時のファンだけでは無く、サンプリングミュージックとしてのHIP HOPを探求する若きヘッズ達にとっても教科書の様な作品になるかも知れない。何を隠そう、今作『Forever』は90年代のニューヨークのシーンを代表するグループである A Tribe Called Quest(以下 A.T.C.Q)の元メンバーであるラッパー、Phife Dawg の遺作なのだ。ほら?この情報だけでも中身が気になってきたでしょ?そして大方の予想通り今作『Forever』は、アルバム全編に渡って音楽愛に満ち溢れた上質なHIP HOP作品となっている。
とは言え、残念ながらも主役の Phife Dawg は2016年に糖尿病により他界しているのだが、実は今作発表の伏線もその2016年まで遡る。その伏線とは彼の死の直後にリリースされたシングル “Nutshell” である事は周知の事実だろう。そう、当時から A.T.C.Q の良き理解者であった J.Dillaの生前のビートを使用した同曲は、彼らしい無駄を削いだタイトなトラックに Phife Dawg の甲高い声から繰り出されるライムが絡みつくストリートライクな1曲。もちろん彼が病気に冒される事なく健在だったならば”Nutshell” を足掛かりにアルバム制作に取り掛かっていたはずなのだが、なんとその風向きが変わったのが昨年の事である。彼の死が2016年ならば、つい先日の事に感じてしまう2021年2月。先述した”Nutshell” に Busta Rhymes と Redman のラップを加えた “Nutshell Part.2” を公開すると、J.Dilla の実弟である Illa J がゲストで参加した “French Kiss” までをも続け様に発表。すると遂に生前に残されたPhife Dawg のラップに命を吹き込んだ遺作『Forever』の完成が見えてきたと言う訳だ。そして、無事に発表された今作だが、先述の通り上質なHIP HOP作品となっている。まず、何と言っても A.T.C.Q 時代の盟友である Q-TIP をフィーチャーした “Dear Dilla” , または9th Wonder が制作したトラックが煌びやかに響く “Only a Coward” , 上ネタのワンループが癖になる “Wow Factor” , 昨年発表した “French Kiss” にRedman のヴァースを追加した “French Kiss Trois” 等、聴きどころ満載の今作『Forever』はネイティブ・タンの香りを色濃く残す名作となったと言えるだろう。初期の A.T.C.Q作品、または J.Dilla のビートを愛する好事家にならば、無条件で推薦したい1枚だ。
DJ YU-1