Justin Timberlake / The 20/20 Experience

Release Date / Mar. 15 2013
20/20 エクスペリエンス
By Kana Muramatsu
ジャスティンと言えば、ジャスティン・ビーバーというのが一般的で、ティンバーレイクの名前を挙げるかどうかで年齢がバレてしまうという時代になってしまった(笑)。最近では俳優業のほうが忙しく、『ソーシャル・ネットワーク』や『ステイ・フレンズ』の人と言わないとわからない人も多いかもしれない。7年という歳月はそれだけ人の記憶を遠ざけていくもの。特に流行り廃りが加速化している昨今ではそれは仕方ないことなのかもしれない。「あのビヨンセの旦那さんのジェイZがラップで参加の”Suit & Tie”という曲を歌ってる<俳優>の・・・・」と枕詞がついて初めて聴くという人もいるかもしれない。でも、大人世代にとって、大人のポップスを聴かせてくれるジャスティン・ティンバーレイクという存在は貴重だ。その彼が7年振りに発表する新作『The 20/20 Experience』を聴けば、その意味をわかってもらえるのではないだろうか。彼が32歳にしてすでに20年以上のキャリア、しかも、トップ・アーティストであり続ける理由の1つは、何よりも、彼の安定感だと思っている。安定感というと常に進化し続けなければならないポップス・アーティストにとっては致命傷にもなりかねないが、彼の場合は、彼がどんなことをしようとなぜか「安心して聴ける」、そんな安定感がある。「セールス?そんなのどうでもいいや」なんて言っていそうな余裕の表れかもしれない。歌うことは彼にとってはすでに<仕事>ではなくなっているからかもしれない。アルバムタイトルからも想像するに、<20/20(註:日本的に言えば、両目の視力が1.0、つまり、裸眼で見える、という意味)>ヴィジョンで、他人の評価も期待も何もかも無視して、彼にとっての大人の遊び場=スタジオで、自分の気持ちの趣くままに音にしていきたかった。本作ではそんな心情が前面に出ているような気がする。
 
何十年も前から存在しているエレクトリック・ダンス・ミュージックが、ポップスやR&B、ヒップホップとの新たなアプローチ/融合で新しいジャンル、EDMとして確立され大ブレイク中だが、様々な曲を聴いて、ジャスティンが2006年に発表した前作『FutureSex/LoveSounds』を思いだした音楽ファンもいるのではないだろうかと思う。あの当時衝撃的で話題にもなりヒット曲も出たが、続かなかった。いわゆる、先を行き過ぎてしまった、というケース。しかし、ジャスティンとプロデューサー、ティンバランドの相性の良さを示した決定打的作品となったことは間違いない。この人達が一緒に組むと、とてつもないマジックが生まれる。そんな彼らのこれまでのマジックの中でも、本作は非の打ちどころのない完璧な<アルバム>作品に仕上がっていると言えるのではないだろうか。先行発表されていた”Suit & Tie”から、タイトル通り、バブルガムを膨らませてパチンと弾けさせるように身体が自然に弾ける”Strawberry Bubblegum”、まさにティンバ・サウンド印の”Tunnel Vision”、70年代ソウル・マナーの”That Girl”、 ラテンのグルーヴ感溢れる”Let The Groove Get In”、 壮大な”Mirrors”、クラシックな雰囲気漂う”Blue Ocean Floor”、デラックス盤限定のボートラながらも上質のダンストラック”Body Count”。アルバム全体を通して、まさに1つのミュージカル映画を<聴いて>いるかのような感覚さえ覚える不思議さ。彼にとっては、アルバムが<ジャスティン・ティンバーレイク・ショー>の舞台であることを示したかのようだ。1ヶ月集中して制作した(”Mirrors”だけはティンバランドの09年発表のアルバム制作時ものを自分用に残しておいたそうだ)からかもしれないが、それぞれが違う表情の曲で、半分以上の作品が7分前後。1曲の中でも転調したり印象がガラリと変わる曲もあるにも関わらず、フロウが全く乱れずアルバムを通して聴き入ってしまう。気付けばリピート3回目。そんな作品だ。すでに本作のパート2が年末にも発表となるらしいとの噂を聞いている。程よい驚きと安心感を与えてくれる数少ないアーティストの彼らしい、傑作をまだ届けてくれることだろう。
 
追記:ぜひこの機会に、米人気TV番組『SNL』でオンエアされたR指定な3部作でコメディックな歌もいけるジャスティンもチェックして欲しい。
”Dick In A Box”
“Motherlover”

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