Ciara / Ciara

Release Date / July 5th 2013
シアラ
By Kana Muramatsu
前作『Basic Instinct(2010)』が発売された際にも言及したことがあったが、彼女は歌が下手ではない。実は私はデビュー当時からずっと来日の際に彼女の通訳をさせてもらってきた。だから<ひいき目>で見ていると言われてしまえばそれで終わりだ。でも、冷静に彼女の作品をデビュー作から聴いてみたらそれに気づくはずだ。確かにビヨンセ級のメガヒットもなければ、リアーナのように話題豊富なわけでもない。教会で鍛えてきたシンガーでもない。ぶっちゃけて言えば、シンガーでもない私のほうが(上手い下手は別にして)カラオケでも声が通るはずだ。でも、彼女のヴォーカルは、まるでパーカッションのように触れる箇所によって音色がガラリと変わる。器用なシンガーだと言えばわかりやすいだろうか。メイク中や移動中、そんな何気ない場面で、アカペラで楽しそうに歌う彼女を何度も見てきた。アルバムで聴く彼女とは違い、本当に透き通るような素晴らしい歌声でいつも歌う。「その声でいつも歌えば、歌が下手とか酷評されずに済むのになぁ・・・」と何度思ったことか。しかし、彼女が目標としているのは、ジャネット・ジャクソン。シンガーではなく、エンターテイナーなのだ。そして、彼女はデビューから10年の間、ストイックなまでにプライヴェート面での話題作りはせず、ダンスレッスンも欠かさず、ヴォーカルトレーニングも続け、アーティストとして進化しながらエンターテイナーである自分を表現してきた。実際、歌とダンスとエンターテイメント性だけでここまで勝負を出来るアーティストは今や数少ないと思う。

今回、5枚目にしてセルフ・タイトル『シアラ』と銘打ったアルバムに先行して発表されたシングル”Body Party”(セミヌードのジャケットは衝撃的)は、セミヌードの写真をカヴァーに使うという、今までのシアラではありえないアプローチだったが、サウンドはまさにシアラ。マイアミ・ベースのクラシック”My Boo”をサンプルしたのも、今までの彼女のサウンドを聴いていれば、腑に落ちる部分も多いだろう。これまでもこういったセクシーな曲を何度かやってきた彼女は、変化したわけではなく、一皮むけたような垢抜けたセクシーさを発揮したという感じ。もちろん、これまでストイックに沈黙を続けてきた恋愛のことも、少しずつ表に出すようになったのは、恋人であるフューチャーとの関係が安定しているという証拠であり、そんなフェロモンが溢れ出た結果ではあると思う。彼をフィーチャーした”Where You Go”を聴けば、それも一目瞭然。彼との曲をメロメロのラヴ・ソングやセクシーさを出した曲にせず、ミッドテンポで心のレヴェルでの結びつきと愛情を語った歌にしたのは大正解だと思う。また、その逆に、男がいなくても元気いっぱいな女の一面を強がるように表現した”I’m Out”では、デビューした当時のシアラを彷彿させるボーイッシュさを感じる。この曲とまた同様の内容の”Livin It Up”は両曲ともニッキー・ミナージュをフューチャーしているが、マーケティング目的の他に、このアルバム全体のコンセプトを表現するために彼女のゲトー・ガールなイメージが必要だったのではないかと思っている。

勝手な憶測に過ぎないが、カヴァー写真には2人のシアラ。シアラ自身がラップに挑戦した”Super Turnt Up”のクレジットもCiara feat. Ciara。そして、強い女と1人の男を愛する女を表現した楽曲の数々。女性であれば誰もが持っている二面性。そこを表現したのが本作ではないかと思っている。そういった意味でも、このアルバムは、これまでの彼女の作品とは一線を画したコンセプト・アルバムであり、シアラのエンターテイナーとしての新たな章の幕開けを意味している気がしてならない。

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