Release Date / 30 July 2021
前作『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』は、米・ビルボードチャートにて2019年で最も売れたアルバムとなり、更に翌年の第62回グラミー賞では〈最優秀アルバム賞〉を受賞したビリー・アイリッシュ。これは一体何を示すかと言うと、彼女は若干18歳にして米国のエンターテイメントの頂点に立ってしまったと言う事だ。これにより今まではファッションも音楽も自由に楽しんで生きてきた少女が、一転して世界中からの視線を集める事になるのだが、そのストレスは想像を絶するものがある。また、今思えばビリー・アイリッシュは自身のヘアスタイルからファッションまでもがマスメディアに浪費される様になった事に対して嫌悪感を示していたし、SNS上でも自身を取り巻く環境に苛立ちを隠せなくなっていたが、その一連の言動すら今作への布石だと考えると非常に興味深いではないか。
そう、彼女の華々しいデビューからスターならではの注目を浴び続ける葛藤、そして家族との絆までを捉えたドキュメント映画「ビリー・アイリッシュ:世界は少しぼやけている」の完成直後に自身のビジュアル面でのシフトチェンジを示唆したビリー・アイリッシュは、トレードマークだったグリーンのヘアカラーをブロンドに変更しただけでなく、彼女の代名詞とも言えるボディラインを隠す様にしていたオーバーサイズのファッションまでも脱ぎ捨ててしまったのだ。この大胆なイメージチェンジにより今まで隠してきた彼女のグラマラスなボディラインがメディアの話題を掻っ攫った事は言うまでもなく、見事に自身のアップデートに成功した訳だが、アップデートされたのはビジュアル面だけでは無い。
ここで本題となる訳だが、今作『Happier Than Ever』も前作のサウンドから大胆にシフトチェンジされているのだ。 このサウンドについては、米・ローリングストーン誌のインタビューに答えた彼女曰く「何も楽しいことのない」アルバムとなっているそうだが、この混沌とした様子がコロナ禍に陥った世相に絶妙にマッチングしている事は今作を聴けばすぐに分かる。例えば先行公開された “Your Power” のアコースティックなサウンドや “Lost Cause” での恋人に見切りをつける様なリリックは前作では聴けなかった大人のビリー・アイリッシュを見事に演出。言うなれば、前作からの大ヒット曲 “bad guy” をアヴァンギャルドなポップスとするなら、今作はアンニュイなポップスといった所か?また、どちらのポップスも一級品に昇華させたビリー・アイリッシュの兄 = フィニアスの存在も今作には欠かす事は出来なかっただろう。この様に自身を取り巻く環境の煩わしさまでも作品に落とし込む事によって、完全無欠のアーティストになりつつある彼女だが、実はまだ今年で20歳だ。今後のキャリアの事も考えると”本物” のスーパースターになる予感さえする。
DJ YU-1