Alicia Keys / Girl On Fire

Release Date / Nov. 26th 2012
ガール・オン・ファイア
2012年R&B界のフィナーレを飾るのはアリシア・キースの5枚目となるスタジオ・アルバム。こういった芸術性に溢れた音楽がまかり通るアメリカはまだまだ捨てたものじゃない。本作はR&Bミュージックが引き継ぐ産物は本来こうであって欲しいという「創造性」を示している作品と最初に言いきっておこう。デビューから10年弱世話になったレーベルJ Recordsを離れ、女性として最大の仕事である出産を経験した彼女が、新たなマインドのもとで制作に取り組んだ心魂作である。彼女の大ファンとして、デビュー当時のパワフルさと音楽的な成熟を同時に感じた一枚だ。9月にリリースしたアルバムからシングル曲“Girl On Fire”は、まさに彼女自身を表現した曲であり、静けさの中に写る「燃える女性」という心理状態であることが理解できる。”Girl On Fire”の印象的なドラム・パートは80年代にヒットしたBilly Squierの” The Big Beat”というロック曲。ドラム・パートと言うよりは、曲を通じて格好の良い作品ということでアリシアがインスパイアされたのだと想像する。制作には前作「The Element of Freedom」でも素晴らしい仕事ぶりを見せたJeff Bhaskerが担当、fun.の”We Are Young”など、畑違いのジャンルでも実力を発揮できる注目の人物である。アルバム収録のInfernoバージョンでは、それにNicki Minajが相当気合いを入れてリリックを書き下ろしたとみられるラップが加わったことで、一度聴いたら忘れられない空気感を生みだしている。アーバン向けでリリースされている“New Day”はイントロを聞いた瞬間に彼女の夫でもあるSwizz Beatzの作品だとわかるフロアを想定した曲。個人的な意見ではあるが、このアルバムの作風を決定づけているコンポーザー、Emeli Sandeも忘れずに紹介したい。日本でも”Heaven”のヒットや本年のオリンピック閉会式出演で知られたスコットランド出身のシンガーソングライターだが、アルバムの初頭で”Brand New Me”そして最終曲で最も強い印象を残す101/101にて描いた孤独な世界観は、これ以上にないアリシアとの相乗効果を作り上げている。他にも初期Baby Faceの良さが上手くマッチした”That’s When I Knew”、Frank Oceanとの共作など、人脈選びからコラボされた奇跡の賜物がずらり。Maxwellとのデュエットもアリシアの眠っていたソウル・ミュージック魂に火をつける結果となっていて最高。紹介しきれなかったがソングライターにはBruno Mars、John Legend、プロデューサーにDarkchildなども参加。「良い音楽」シンプルなことなのだが、中々それが難しくなっている今の時代に、このアルバムを手にできる人は幸せである。

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