Lil Tecca / Virgo World

Release Date / 18 Sep. 2020

言わずもがな世界規模で巨大なマーケットへと変貌したHIP HOP。個人的には、その歴史は決して順風満帆だった訳ではなく、常に世間からの逆風との闘いの連続だったと認識しており、諸説があるにせよ、その”カルチャー = HIP HOP”の起源として映画『WILD STYLE』の公開は1982年であり、またSuger Hill Gangのデビューで言えば1979年にまで遡る。

つまり何が言いたいかというと、HIP HOPが世界的な市民権を獲得するまでに約40年もの年月を費やしてきたという事だ。うーん、これは長いね。とはいえ、ついこの前までHIP HOPヘッズと言えばアウトサイダーなイメージが付きまとっていたのは確かだが、状況は随分と変わったとは思わないか?

例えば日本で言えば近年のフリースタイルブームにより、ローティーンの年齢のキッズからラップのスキルを磨くまでになっているのだ。そんな中、今作『Virgo World』を発表したニューヨーク州はクイーンズ発のラッパー = Lil Tecca(リル・テッカ)は2002年生まれの18歳!なんと先述の『WILD STYLE』の公開から20年後に生まれたラッパーなのだ。いや本当に若い(遂にHIP HOPもここまで来たか)しかもLil Teccaはバリバリのネット世代と来たもんだ。

かつてクイーンズのラッパーと言えばMOBB DEEPに代表される様にストリートでのサグライフをリアルに歌う事でブレイクしてきたのだが、Lil TeccaのブレイクのきっかけはYouTubeであったり、インスタライブでのトロント勢のラッパーとのビーフだったりする。いや、「ラッパー同士のビーフがインスタライブで繰り広げられるなんて世も末だ」なんてボヤいていたら世の中から取り残されてしまいますよ?(笑)

その証拠にLil Teccaのフロウはしっかりと現在のシーンのツボを突いているでは無いか。もちろん周りの大人達が御膳立てした筈だが今作『Virgo World』は、フロウだけではなくトラック1つを取ってもサウンド的に旬のものがズラリと並ぶ。また、この若さで大人顔負けのスキルを身につけられたのもネット世代ならではの情報力だと感心させられたくらいだ。

見事に無名だった時代に”Ransom”を全米シングルチャートの4位にブチ込んだ実力は伊達じゃなかった事を証明するアルバムとなった『Virgo World』。

以上を踏まえた総評として、今作をきっかけにLil Teccaがシーンの主役になるとまでは言い切れないが、彼の様な出自を受け入れられるかどうかでHIP HOPの今後の50年も大きく変わるだろう。本音で言えば少し寂しいのだが、このカルチャーはストリート育ちの不良の為だけのものでは無くなってきている訳だ。そう言った意味ではLil Teccaの様なタイプのMCの登場はシーンにとってエポックメイキングなものになるかもしれない。

DJ YU-1

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