Release Date / 19 Jan 2022
『BADモード』とは、なんとも直球なタイトルを付けたものだ。それは一体何の話かと言えば、もう既に多くのリスナーに届いている筈の宇多田ヒカルのニューアルバムのタイトルの事である。そう、このアルバムタイトルからも、自宅での自粛の日々を連想させるジャケットのアートワークからも分かる通り、アルバム表題曲 “BADモード” はコロナ禍での憂いをストレートに閉じ込めたアンニュイな曲となっている。いや、表題曲に限らずどの曲からも多少なりとも鬱蒼とした重い空気感を感じるくらい………うん。やはり今作はコロナ禍だからこそ生まれた憂いのアルバムだと言えるだろう。
とは言え、そこは日本が誇るトップアーティストの宇多田ヒカルの作品だ。どれだけアンニュイなリリックを書き溜めようとも、華やかなタイアップに彩られたエンタメ作品としての側面も持ち合わせている。今更説明するまでも無いかも知れないが、映画『シン・エヴァンゲリオン』のテーマソング “One Last Kiss” , TBS系金曜ドラマ『最愛』の主題歌 “君に夢中” , サントリー天然水のCMソング “誰にも言わない” , ゲームソフト『KINGDOM HERTS Ⅲ』のテーマソング “Face My Fears” 等、収録されたタイアップ曲だけでも枚挙にいとまが無いくらいで、文字通り日本の商業音楽としては頂点に位置する作品なのだ。そしてこれは本当に景気の良い話で、たった1人のアーティストのアルバムにこれだけの数のクライアントの案件が集中するなんて、今の日本の市場規模を考えるとちょっとした異常事態と言えるだろう。裏を返せば、それだけ宇多田ヒカルと言う存在が音楽シーンにもたらす影響が大きい証拠とも言えるが、今作の聴きどころは別の次元にあると確信している。そうなのだ。今作の最大の魅力は宇多田ヒカルだからこそ実現できたサウンドプロダクションの妙にあるのではないか?
例えば、 “One Last Kiss” , “君に夢中” の制作に参加した A.G Cookや “Face My Fears” に携わったSkrillex & Poo Bear、また “BADモード” に参加した Floting Points は海外のエレクトロ/ポップスのシーンにおいて存在感の強いクリエイター達である。そして、にわかにガラパゴス化が進むJ-POPの他作品と宇多田ヒカルの楽曲のインストの響き方に明らかな違いがあるのは、このクリエイター達の仕事の賜物と言う訳だ。確かにデビュー初期から海外のアーティストとの交流が多かった宇多田ヒカルではあるが、これだけのコネクションを駆使してアルバムを作り上げる日本人アーティストが他にどれだけいるだろうか?コロナ禍の影響で急速にオンライン化が進み、より世界との距離が縮まってきた所での『BADモード』の発表は、J-POPのグローバル化と言う意味でも重要な作品となりそうである。少し大袈裟な表現になるが、BTSを筆頭にUSシーンで成功を収めたK-POPとは違う方向性の国際化を示してくれた宇多田ヒカルの功績は非常に大きい。
DJ YU-1