Lil Wayne / I Am Not A Human Being 2

Release Date / Mar. 26th 2013
I Am Not a Human Being II
By Kana Muramatsu
リル・ウェイン。正直言って、プライヴェートでこの人の音楽を自ら好んで聴こうとは思わない。いや、この人の音楽を聴くたびに、本気で英語がわからなきゃよかったと思う。別に嫌っているわけではなく、彼の音楽性は天才的と思っている。クラシックやカントリー、フォーク、ロック、スクリューと、あらゆるサウンドにインスパイアされ、サウンド的には昔から革新的なアーティストだった。そして、誰もが称賛するように、彼の声はまさにラップをするために生まれてきた、天性の才能の持ち主だと言えるだろう。実はかなり頭の回転もいいはずだ。アーティスト達からもヒップホップ・ヘッズからも一目置かれ称賛されている存在。いくら世間を騒がせても、「リル・ウェインだから」と許させてしまう存在であり続けるのは、それが自然だろうが、計算だろうが、間違いなくこの世界で生き残る為の確信犯的技までを身につけているからだろう。でも、天才と狂人は紙一重。彼の音楽を聴くたびにそう思うのだ。
 
そもそも、ヒップホップの在り方自体が近年変わってきているのも事実だ。リリックは、決まって、「金・女・酒・ハッパ」がメインのトピックで、頭にくればすぐに誰かの「頭を撃ち抜く」とか、意見されれば「ヘイターはルーザー」、N-ワード(ニガ)と多人種に言われるとキレるのに、自分達はN-ワードを連呼、と歯止めが効かなくなっている。もう耳を塞ぎたくなる罵り言葉や女性侮辱・侮蔑語の連呼。中にはちゃんとリリックを細かく聴けばメッセージ性の高い比喩も多いだろうが、特に本作はリリックを理解したくないと体と頭が断固拒絶しているのがわかるほど酷い。冒頭のクラシックに合わせてフロウする”IANAHB”も、ただ表面上の音を聴くだけなら、すごくディープな内容や衝撃的で涙を誘う告白なのかもと思うかもしれない。でも、結局、ディックの話が中心で、酷い比喩も多い。他の曲もそうだ。斬新で革新的で素晴らしいサウンドを提供する才能があるのに・・・。そういう意味でも、クラブで酔っぱらい大騒ぎして、ビートとフロウにノって踊るためだけであれば、間違いなく彼は最高の曲を提供してくれるアーティストの1人だろうとは思う。
 
彼自身も『I Am Not A Human Being II』 (俺は人間じゃないII)というアルバム・タイトルをつけているが、彼は宇宙人だと思えばかなり納得がいくと言えるかもしれない!と最近思うようになった(笑)。と言いながら、英語がネイティヴな米国で発売週売上No.2だったほど人気が高いのも事実で、今、音楽ファンがラップに求めているものは本作のような作品だと、ありのまま受け入れるしかないのかもしれない。言っている内容を無視して、曲だけ聴けば、本当に面白い作品であることは間違いないから。

PAGE TOP