Release Date / 13 Nov. 2020
1960年代にナイジェリアのミュージックシーンのレジェンドであるFela Kuti が提唱したとされるアフロビート(AfroBeat)は、ブラックミュージック特有のファンクネスを秘めたリズム感も去る事ながら、アフリカ社会における黒人解放運動を背景に生まれたバックボーンに近年のアメリカ社会でのBLM運動とリンクする部分が多く見られる事も特徴だ。この黒人社会の問題を抱えるアメリカとアフリカの2つの大陸を結ぶ・・・とまで言ってしまうと少し大袈裟な表現になってしまうが、偶然にも米・アトランタ産まれにも関わらず育ちはナイジェリアという経歴を持つシンガーのDavido が、ナイジェリア発のアフロビートを継承しながらアメリカのヒップホップ系アーティストとコラボレーションしていく事は必然な流れだとは思えないか?
そんな中でドロップされたDavidoの3枚目となる新作が、本稿の主役である『A Better Time』だ。このアルバムの冒頭に収録された “FEM” は、ナイジェリア版BLMとも言えるEnd SARS運動(警察 特殊部隊廃止運動)のプロテストソングとしてアフリカ全土に広まっていく事となるのだが、実は今作の見どころはこの様な政治的な側面では無く、先述した通り在米ヒップホップ系アーティストとDavidoとの見事な連携にあると見ている。例えばNicki Minaj との “Holy Ground” や、Lil Baby をフィーチャーした “So Clazy” あたりは、流行りのトラップとは一味違ったバウンスなビートでゲストのラッパーを際立たせているし、この多彩なコラボ達の中で別格に輝いているのが Nas とHitboy をゲストに迎えた “Birthday Cake” ではないかと感じた。同曲の一度聴いたただけでも心地良く響き続けるスムースなサウンドも当然素晴らしいのだが、デビュー当時からヒップホップのルーツがアフリカにある事を詩的に表現してきたNas とアフロビートの体現者であるDavido の相性の良さったら素晴らしいの一言!冗談抜きで必聴と呼べるクオリティの共演の連発には、最大級のリスペクトを送りたいと思う。そして今作『A Better Time』が、筆者としてはまだまだ掘り下げきれていないアフロビートに更なる興味を持たせるきっかけになった事は言うまでもない。
DJ YU-1