Wale / The Gifted

Release Date / June 24th 2013
Gifted
By Kana Muramatsu
リル・ウェインの時と同じだが、相変わらずNワードとFワードのオンパレードであるにも関わらず、そこまで不快感を感じないのは、ラップだけでなく、歌モノ寄りが多い、そして、フロウ自体も歌っているかのようであることからかもしれない。そんな言い方は、ヒップホップ・ファンからしたら邪道かもしれないが、一般的な音楽ファン、R&Bファンからすれば、Nワード、Fワードをキンキン声やドス声で連呼されるほど苦痛なものはない。せっかく良いメッセージを伝えようとしていたとしても、全く響かない。そういう意味では、ワーレイの曲はどれも響いてくる。あのマーク・ロンソンが彼に目を付けたというのも、そんなところだったのではないかと思う。

「才能ある男」というタイトルの本作。他のラッパーと一線を介するのは、「人を撃ちゃいいと思ってる奴は、何もまともなことを言えない奴(”Bricks feat. Yo Gotti & Lyfe Jennings”より)」のように、正当なことをキッチリ語っている点だろう。ラップで多いのは、なんでもかんでも社会のせいにして悪態をつくこと。それをワーレイは貧困や辛いストリート・ライフを社会のせいにしないことを語るなど、ふざけていたり、カースワードが多くても、案外まともなことを言ってるじゃん!と思わせてくれる。無意識か意識的かはわからないが、自分の作品を多くの人達の<鏡>となるような作りにしているような気がする。

ベッドがきしむ音がループし続けている今最も話題のシングル”Bad”は、リアーナをフィーチャーしたヴァージョンとティアラ・トーマスという見た目もリアーナにちょっと似ている新人シンガーソングライター(インタースコープ傘下のリコ・ラヴのレーベルからデビュー予定とのこと)を起用した2ヴァージョンが収録されている。知名度的にも話題性から言っても、リアーナをフィーチャーしたヴァージョンのほうが人気が高いようだが、個人的には、ティアラ・トーマスのヴァージョンのほうが哀愁が感じられて気に入っている。意図的なのかどうかは不明だが、リアーナ・ヴァージョンはクレイジーな方向へイッテしまっている。これもまた聴く人それぞれの経験や感情によって捉え方はことなるだろうが、好みが真っ二つに分かれるのではないだろうか。また透明感あるヴォーカルのサム・デューをフィーチャーした、”LoveHate Thing”はかなりソウルフルでR&B/ソウル・ファンも安心して聴けるヒップホップ曲と言えるだろう。”アフリカの空気漂うイントロでスタートし、2Pacのヴァイブを感じると銘打った”Sunshine”は、文字通り、ビーチで聴いていたくなるし、音楽性もスタイルも同じ線上にいるシー・ロー・グリーンをフィーチャーした”Gullible”は、思わず体が動いてしまうディスコ・ソウルで、普段全くヒップホップを聴かない、または、最近はヒップホップから離れていたような人達など、幅広い層の音楽ファンが楽しめるアルバムになっていると思う。

今回、アメリカでもう1つ話題になっているのは、コメディアン俳優/プロデューサーのジェリー・サインフェルドの参加だろう。日本ではあまり人気が出なかったが、アメリカではコメディー・シットコムの最高傑作と言われる『Seinfeld(となりのサイフェルド)』のサインフェルド本人。なんで?と思うのが普通だし、実際に彼が参加している”Outro About Nothing”では、「アルバム一緒に作るんだろ?そういう話だったから俺今日ここに来たんだよな?」と言うサインフェルドに、「呼んだら本当に来てくれるか試してみたかっただけ」という、普通に考えたらとんでもないスキットになっていて、ワーレイの突拍子もなく独創的な発想を垣間見ることが出来るのではないだろうか。

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